以前、夜景の写真をよく撮っていた。
人気の無い工場街の運河沿いから、レンズ越しに遠くの街灯りを眺めた時、自分が外国よりも遠いどこかにいるような感じがした。
学生時代には、カメラと三脚、その他最低限の装備を持ってよく深夜の街を歩き回った。電車が無くなった後の都心の大通り。殆ど人の気配のしない工場街。いかがわしい雰囲気の裏通り…ちょっと危ない目に遭ったことも何度かあったし、特に冬の寒い時期や雨の夜は体力的にもかなり厳しかった。
しかし「そこにいる時間」を大きくずらすことで、移動時間や旅費もかけずに、非日常を味わうことができる。よく知っているはずの場所なのに、まったく知らない場所にいるかのように感覚が研ぎすまされる。
社会に出てフリーになってからも、機材を持ってよくそういう旅に出た。
本当は20代のうちにもっと世界の色々な所を旅したかった。誰かが7時間かけてどこかずっと遠くに向かっているとき、自分はその7時間でカメラを持って暗い街中を歩き回る—それが僕にできる旅だった。
